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バーチャルプロダクションとカラーマネジメント:カラーキャリブレーションの事前知識

前回の復習

前回は、ソニー株式会社が公開しているVirtual Production Tool SetとNetflixが公開しているOpenVPCalの違いを簡単にご紹介しました。

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カラーキャリブレーションを行うための事前知識

連載第2回目は、カラーキャリブレーションを行うための事前知識を解説します。

LEDボリュームで表示する際に、自分が何をキャリブレーション作業しているかを理解することに繋がります。

 

LEDウォールで撮影した映像の色について理解する

LEDウォールは自然光下の環境と異なり、LEDウォールそのものが発光しています。

通常、我々が目で物を見るときやカメラが取り込む光情報というのは、物体に反射した光が目やレンズへ入ってきて色として認識しています。
しかし、LEDウォールを再撮するバーチャルプロダクションでは、LEDウォール自らが発光した光をカメラで直接取り込むため、実際に目で見た色とは厳密に言うと性質が異なる色情報になります。

LEDと自然光の美術(物理)セットを撮影したときの色の違い

この色情報の違いがあるため、美術部が制作する美術(物理)セットと、LEDウォールに描画されるCG背景アセットの色を100%合わせることは非常に困難です。

さらに、LEDパネルの色再現度には若干の誤差があり、その誤差はLEDパネルやLEDコントローラーの機種や性能に依存します。
たとえば、製品スペック上1000nitsで出力可能なLEDパネルの最大出力が、計測してみたら実は999nitsであったり1025nitsであったり、スペックの数値を期待して設定しても誤差が出ることがあります。
色温度に関しても、Rec709/D65 で100%WhiteをLEDに表示していても、実際には6490Kelvinで表示されているといったような誤差が出ることがあります。

これらの微妙なズレが重なりあうことで、厳密に数値設定を揃えたつもりでも、カメラで撮影する美術(物理)セットとLEDウォール間で色表現のズレが発生します。
そのズレを限りなく減らすために、カラーキャリブレーションを行い、カメラを基準にしてLEDボリュームが出力する色表現を合わせましょうという考えに至ります。

 

バーチャルプロダクションにおけるLEDの立ち位置と役割

インカメラVFXのスタジオで一番高価で、導入時の高いハードルとなっている機材は恐らくLEDウォールでしょう。
そのため、普段撮影に関わらない立場からすると、LEDウォールがバーチャルプロダクションの売りであり主役と思われる方もいらっしゃると思いますが、それは誤りです。

主役はカメラ、演者、美術(物理)セットです。

カメラで再撮するフレームの中のLEDウォールの存在は、言ってしまえば、空間を拡張して演出するための機材にすぎず、本来は壁であり平面であるLEDウォールの奥に、あたかも空間が続いているように見せかけるインカメラVFXが存在しなければ、LEDの本領は発揮できません。
そのため、LEDウォールだけ存在して、LEDウォールの前に美術(物理)セットが存在しないケースでは、パースペクティブの認知度が低くなるため、味気ない様に見える画がカメラに記録されるだけです。

LEDウォールより手前に存在する、演者と美術(物理)セットの延長線上に、空間が拡張されていると認知させるためにも、適切なカラーキャリブレーションを行ったLEDウォールが必要だということが理解いただけると思います。

 

LEDウォールの色調整タイミング

通常、LEDウォールの色調整作業は、スタジオ内のリアルな照明とカメラの輝度調整の終了後に行われることがほとんどです。
そのため、当日の制作進行が予定していた撮影スケジュールより押した場合、LEDウォールの色調整は最後に回されることになり、最悪、調整を行えないこともあります。
インカメラVFXを扱う現場では、LEDウォールの色調整作業の優先順位はあまり高くなく、時間が無くても準備ができるよう、あらかじめ前倒しで進められる作業は、撮影の前段階で終わらせておくという基本的な心構えが非常に大切です。

 

LEDウォールのカラーキャリブレーションする際の色温度設定

今回のこのチュートリアルでは、カメラとLEDウォールの色温度を6500Kに設定します。6500Kを選ぶ理由は、多くのLEDウォールの評価環境が6500Kに設定する場合が多いからです。
もし、この記事を読んでいる方が撮影の色温度を5000Kに設定する予定であれば、LEDウォール、カメラなどは全て5000Kに揃えて設定したうえで、LEDウォールのカラーキャリブレーションをしなくてはなりません。
現状、撮影に使うLEDの設定に依存するため、LEDの設定が変わるたびにキャリブレーションをやり直す必要があるということも、覚えておいてください。

 

LEDウォールのカラーキャリブレーターの設定に従う

LEDウォールのカラーキャリブレーションでは、カメラで再撮した画を何らかの手段で分析するアプリケーションに対して、画像を転送し、読み込み、マクベスチャートの色とLEDウォールが発光する色味がどの程度違うかを測定し、色補正を行います。
意図しているカラーキャリブレーターの設定にするためには、カメラ設定を合わせる必要があります。
カメラには、いくつもの明るさや色味に関する設定の組み合わせがありますが、それらをすべて合わせたうえでLEDウォールのカラーキャリブレーション作業を進めないと、正しい色補正の結果は得られません。
例えば、EI(Exposure Index)やND Filterの設定も細かく指定があります。
この作業で肝になるのは、光量を測定する機材として実際のカメラを使用するので、カラーキャリブレーターが意図した設定をカメラ側に施す必要があるという点を理解することです。

 

まとめ

今回は、撮影条件に従って正しい色情報をLEDウォールで表示するためのカラーキャリブレーション作業の概要について説明しました。
また、インカメラVFXを利用する際のLEDウォールの立場はあまり高くないことも理解していただけたと思います。

 

次回は、カラーキャリブレーションの具体的な操作に触れていくために、「カラーキャリブレーションを行う為に必要なUnreal Engineの知識」を説明します、お楽しみに。